ハゲにまつわる、おかしくも、まじめなお話。カテゴリー、1)~6)の順にお読みください。
これだけ高いカツラを売っている大手カツラ屋に対抗して、安い値段で販売する理容店が現れてもおかしくないのだが、現実は難しい。
最大の理由は日本人特有の気質による。
一般の理容店でもカツラを勉強している技術者はいる。彼らの技術レベルは大手カツラ屋の技術者にひけをとらない。というより、カツラの技術そのものがそれほど難しい技術ではない。私(理容師免許を持っている)でも一週間も練習すれば、一人前のカツラ技術者になれる自信はある。
一般の理容店でカツラ技術をメニューに採用した場合、一~三万円のカツラを仕入れて、欧米のカツラ相場である十数万円で売っても十分な利益が出る。
理容店の業界団体である全国理容生活衛生同業組合連合会では、過去に何度かカツラに取り組んできたが、成功しない。カツラの技術はもちろん、カツラ技術用に個室を作るアドバイスをしたり、カツラの頒布を手助けしたり、カツラ技術のコンテストを主催したりして、普及を目指したがうまくいかなかった。
失敗した理由は、カツラーの心理を知らなかったからである。
カツラーは、自分がカツラーなのを知られたくない。これが最大にして、絶対条件なのだ。回りの人に知られないために最大限に神経を使う。
街の理容店がカツラー用の個室を作って、周囲と完全に隔離しても、カツラーはその理容店でカツラを作ることはない。なぜなら個室に入っただけで回りの客から怪しまれてしまう。一般の理容店は、立地にもよるが地域と密着していて、客同士も顔なじみが多い。そんな理容店では、個室に入っただけで怪しまれてしまう。
実際には、大半の客は他の客が個室で何をしようが興味ないかもしれないが、カツラーは神経質なのである。カツラーであることがばれてしまうかもしれないと危惧する。
休日を利用して、特別にカツラ客に技術する理容店や、営業時間が終了したあと、自宅の玄関からこっそりと入れて技術する理容店もあったが、それとて同じこと。カツラーは世間の目を異常に気にしている。
ましてやパネル式の簡便な仕切り程度では、カツラーは寄り付きもしない。
大手カツラ屋のサロンは、たいてい駅前や繁華街の雑居ビルにある。カツラーがカツラサロンを利用するときは、サロンのある階を避けて、別の階でエレベータを降りて、階段を使ってサロンまで行く。帰りも同様に別の階からエレベータに乗るのである。カツラーは、カツラサロンのある階から乗り込んだら、疑われると信じて疑わない。それくらいナーバスなのである。
理容店は地域の客が多い。とても近くの理容店など行かれないし、わざわざ遠方に出向いたとしても、普通の理容店には入る気はしないだろう。
だいいち常連客のうち頭の薄い人にカツラを薦めるという発想そのものが間違っているのである。顔見知りの理容店でカツラをつける勇気あるカツラーはまずいない。
というわけで、カツラーは大きな都市の雑居ビルの中にある大手カツラ店を利用することになる。それがカツラのマーケットなのである。
大手カツラ屋としては、巨額の宣伝費を投じて、ハゲラーを掘り起こし、相談のあったカツラー候補者を近くの専用サロンに案内する。(大手カツラ屋では、問合せや相談を受けるのは専門のポジション、コールセンターとかお客様相談センターがあって、いったんそこでハゲラーの話を聞いたあと、最寄のサロンに案内している)。
最近ではインターネット上でカツラー候補者が、人に相談することなくチェック項目に回答して、自ら診断できるシステムもある。人に知られたくないハゲラーにとっては最適なツールがインターネットである。ネット上でチェックした結果、ほぼ全員が近くのサロンに行くようにコンピュータから指導される仕組みになっている。
カツラを営業種目に取り入れようとした、理容店の全国組織の指導者の間違いは、ハゲラーの心理を知らなかったこと、つまりカツラのマーケットを知らずに取り組んだことにある。
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